ベデリア

20世紀初めの石油危機の中で。

サイクルカーのブームに関しては、当時の石油事情も考慮しなければならない。ベデリアが生まれた1910年代は、石油の枯渇が危惧された時代であった。庶民の間にガソリン自動車が急速に普及し、船舶の燃料も石炭から軽油や重油にシフトしていた。当時掘削されていた油田の石油では、需要の増加に追いつけないと見られていたのである。

こうした状況の中で石油の価格はじわじわと上がり、1920年の価格は7年前の1913年の3倍にもなった。これは、1970年代の石油危機の時と同じような上がり方だそうである。フランスでも、石油価格上昇に伴いガソリン価格がはね上がった。そうなると、小型で普通車より燃費の良いベデリアはユーザーに大いに受け入れられたのである。まさに時代が求めた車だったのだ。

しかし、油田の開発が進んでガソリンの価格が下がり、大手の自動車メーカーから低価格の大衆車が売り出されるようになってくると、やはり、簡易型のサイクルカーは次第に衰退していった。人気を博したベデリアも1925年には製造、販売を終了する。

ベデリアの走行動画
イギリスのブルックランズ博物館のイベントで撮影された動画である。バタバタとエンジン音を響かせながら走る様子を見ることができる。

いつの時代も簡便な車がブームに。

ベデリアやサイクルカーがウケたのは1910〜20年代の間の15年ほどだったわけだが、こうした簡易型の小さな車のブームは繰り返しやってくるようである。第二次世界大戦後の物のない時代、1940年代後期から1950年代に、今度は「バブルカー」と呼ばれるマイクロカーがブームになる。低価格で燃費の良いバブルカーに人々が飛びついたのだ。

19世紀の終わりに自動車が生まれ、20世紀になると人々はその自動車を求めるようになる。そしていつも時代も、自動車が欲しいという庶民の欲求は旺盛であった。たとえ世の中が厳しい状況になり、小さくて不便な車しか買えなくても、庶民は気にせず求めたのである。

ベデリアは、そんな庶民の自動車第1号であり、記念すべき車とも言えるだろう。

サイクルカーの歴史を解説する動画
最初のサイクルカーとしてベデリアが登場。その他にもさまざまなサイクルカーの写真やレースの様子などが出てきて興味は尽きない。